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李佳琦電撃復帰!! ダブルイレブンは?ライブコマースは?

9月20日、中国のEC、ライブコマース業界がざわめいた。

姿を消してから109日。突然、かつてのカリスマKOL「李佳琦」がライブコマースを実施、業界復帰を果たしたのである。

今回はダブルイレブン直前に起こったこの大きな変化について考えてみたい。


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電撃復帰を果たした李佳琦

実は業界では李佳琦復帰の噂は数回にわたって囁かれていた。

9月の中旬ごろにも「復帰」の文字が業界関連情報メディアに見え、「9月23日の夜に復帰」という具体的な日時を添えて報道、WeChatメディアなどでも転載されていた。

 

そうした噂が立ち上る中、彼は「予定」より早く、まさに電撃復帰を行ったのである。しかも、彼のWeiboオフィシャルアカウントでもライブ告知がなされておらず、また“失踪”の原因も不明確のままであったために、ゲリラ的な復帰のような印象をもたらした。

(注:現在は更新が再開されている)

 

このライブに小売りやEC情報のメディアも視聴しながらの報道を行った様子で、「開始10分でのべ300万人の視聴」といった数字がネット上に登場。

その数字も、「30分でのべ500万人」、「1時間で2100万人」と時間を追うごとに増え続け、最終的には約2時間のライブコマースで6350万人が視聴したと報じられた。

 

また復帰ライブで彼が紹介したのはNIVEA、Vinda、悦目心情、babycare、QuadHA、Curél、花西子、Crest、EBISU、L’ORÉAL、VidalSassoon、finoといった、中国および海外のブランドで、錚々たる銘柄が並んでいる。

 

こうしたブランドが、彼の復帰をあらかじめ知っていたか否かに関しては明らかではないが、事前に全く情報が流れなかったことを考えれば、復帰直前になっての通知、対応であったのではないかと予想される。

 

結果としては紹介された26の商品のうち、18の商品がこのライブで売り切れ状態となった。一部のメディアではその販売状況などから、そのライブコマースによるGMVを概算で1.2億元程度だったのではと予想している。

 

いずれにせよ、6000万人、1億元以上という大きな効果を上げたと言えるだろう。

李佳琦の復帰で見えた消費者にとっての「李佳琦」

李佳琦復帰。

この報に、中国の消費者はもちろん喜びの色を見せている。

Weiboの関連書き込みなどを見ると。「復帰を待っていた」、「姿を見ることができてうれしい」といった彼自身のファンと思われるユーザーの投稿に混じり、「彼の復帰でダブルイレブンで何を買えばいいかが分かり、ホッとした」という投稿も見られる。

 

つまり中国の消費者にとって李佳琦が紹介する商品は「最もお買い得な商品」、「買って損はない商品」という認識を持っていると思われ、特に膨大な種類の商品が複雑な掛け率によって安くなっている商戦(618やダブルイレブン)において、「買うべき商品」を判断する目安になっているのである。

 

これは「最もリーズナブルに良い商品を紹介する」という彼のスタンスを、時にはブランド側と衝突しながらも貫き、積み上げてきた成果と見ることができる。

 

しかし、復帰ライブは明らかに以前とは異なる点も見られた。

 

彼の常套句であり、彼を代表するキャッチフレーズである「买它买它!(これは買い!といったニュアンス)」は一度として聞かれず、以前の様な熱狂的な、日本でかつて見られたバーゲンセール会場を思わせるような、買い物バトルを煽るようなニュアンスは姿を消した。

 

代わって「みんな無理のない範囲で買おう」というコメントや、「理性消費」と書かれた背景など、大量買いではなく、消費者がその需要に応じて購入するというスタンスが呼びかけられた。

近年、中国社会では大量消費を戒める「理性的消費」を行政が呼びかけていたが、李佳琦もこうした施策に沿い、レギュレーションに則ったライブコマースを行うことを印象付けているようでもある。

 

その後行われた彼のライブにおいてもその姿勢は維持されているが、まもなく訪れるダブルイレブンにどのような呼びかけを行うのかは興味深いところだ。

李佳琦の再登場でライブコマースはどう変わるのか?

では、この李佳琦の復帰は中国のライブコマース市場に何か変化を与えるのだろうか?

 

筆者は李佳琦復帰の報に触れた時、「転換期を迎えている中国のライブコマースが、以前のように戻るのでは?」と考えた。

 

以前の李佳琦が存在していたころのライブコマースと李佳琦が不在であった時期のライブコマース、何が変わったのか。

 

一言で言えば「ショッピングの場からエンターテイメントの場へと転換しつつあった」と言えるだろう。

 

代表的なものが塾経営をしていた新東方集団によるライブコマース「東方甄選」である。

彼らは直接商品の良さをPRして販売を行うのではなく、塾講師という特性を活かし商品に関連した英単語を紹介するといった、いわば変化球的方式が消費者の興味を喚起し、購入に結びついていた。

 

また618後には羅永浩が各業界の専門家をライブルームに招き、Q&A方式で専門的知識を伝える「学ぶ型」のライブも行っている。

 

そうした流れから、「押しつけ型のライブコマース」に消費者が飽きを感じていたのではと考え始めており、今後はよりコンテンツとしての作りがライブコマースにおいても求められるのではとの予想を立てていた。

 

そこにカリスマKOLであり、中国最大級の「売り手」であった彼が復帰した。

そのこと自体は、ブランドにとってもありがたく、また行政にとっても国内の消費を押し上げる効果が期待されていると思われる。

だが、それによってコンテンツを重視したエンターテイメントとしてのライブが、かつての様なショッピング、特に押しつけ型のライブへと戻ってしまうのではないかと感じたのである。

 

もちろんその懸念は現時点でも完全に払しょくできたわけではないが、前述のように彼のライブは以前とは異なり、「落ち着いた」呼びかけを行うスタイルに変っており、おそらくはこのままダブルイレブンも以前とは異なるスタイルのライブを展開していくものと思われる。

そして、かつての「ひたすら買わせるライブ」は新人などの中堅以下のライバーが取る形式、やや時代遅れなスタイルとなりつつある。

 

前回述べたヴァーチャルライバーの起用も進んでおり、ライブコマースにおけるコンテンツ重視の流れは、李佳琦と同時進行で進んでいる様子だ。

 

ダブルイレブンまであと1ヶ月以内となった。

李佳琦は相変わらず落ち着いたライブを続けている。彼の存在は、多くのブランドにとって最大商戦における希望となっている様である。

それが今回のダブルイレブン商戦にいかなる影響を与えるのか、そして中国のライブコマース全体にどういった変化をもたらすのか、注意深く見てみたい。