【セミナーレポート】「山下智博」が刺さる!中国人ウケするクリエイティブ(2)中国人と日本人の感度の違い
第1回では、office339のご紹介と、そこで制作しているバラエティ番組を例に中国インターネット動画事情をお伝えいたしました。
▼中国の「ネット動画」日本との相違点についてまとめました!
【セミナーレポート】「山下智博」が刺さる!中国人ウケするクリエイティブ(1)中国動画業界はコンテンツ主導
続いて「中国人と日本人の感度の違い」について、事例を用いながら考察していきたいと思います。
「中国市場」を正確につかむには
まずはマクロ的な視点で一度中国市場を振り返ってみます。
昨今、中国市場から撤退する日本企業の事例は枚挙にいとまがありません。撤退に帰結してしまう要因は何なのでしょうか? 大まかにいえば以下の2点に集約できます。
- そもそも中国人のインサイトがつかめていない
- 日本が経済大国世界2位だった過去から、日本のほうが上だという意識から脱却できていない。
中国の経済状況や消費者動向を把握し、その中で「中国では何が売れて、どういったアプローチが有効なのか?」を模索していく必要があります。
中国のGDPが日本を抜いたのは2010年のことで、以来7年間、中国は世界第2位を保ち続け、2017年に至っては通年のGDPが当時の倍、80兆円を突破すると見込まれています。
中国の経済規模はすでに日本を上回っているという認識のもと、中国進出にとりかかる必要がありそうです。
日中「笑い」の違い ~「待ってました」のボケがはまる
さてそれでは本題に進みましょう。日本人の感じる「面白い」と、中国人の「面白い」には相違があります。
日本では最近、ブラックジョークなどのシュールなギャグ、またはあえて面白くないことを披露したり、制作側の内情を暴露することで笑いを誘ったりする、いわゆる「裏の笑い」といった技法が認知されています。
しかし、いまの中国ではそういったものは全く受けません。彼らが好むのはしっかりとわかりやすい伏線を張り、笑いどころが誰からもわかる、コテコテのギャグです。(日本人から見ると、「昭和の笑い」だと思えるかもしれません。)
セミナーでは実際にこの差を体感してもらうため、『绅士大概一分钟』(紳士の大体1分間)の1編「大学デビュー(大学出道)」を参加の皆様に鑑賞いただきました。
この作品を鑑賞する前提知識として、中国での大学入学が何を意味するのかを知る必要があります。よく知られているように、中国の大学受験の競争は熾烈です。高校までは勉強ばかりの日々、おしゃれをするのは大学から、と言った社会通念があります。
実はこの「大学デビュー(大学出道)」も消費財メーカーとのタイアップです。「大学生からのおしゃれ」にピントを合わせ、「大学デビュー」でのヘアスタイル(髪質の良さ)の重要性を訴求します。
三者三様で「ボケ」を繰り出すストーリー
作品の冒頭では「正統な」大学デビューの様子が人気KOL「山下君」により定義されます。ヘアスタイルから服装、足先に至るまで完璧に着こなしを決めていますが、普段の「山下君」とのギャップから笑いが起こる可能性もあります。
ここまでは「正統な」タイアップ作品といえるでしょう。この先に「中国で大人気」なコンテンツである『绅士大概一分钟』(紳士の大体1分間)の実力が発揮されます。
視聴者をひっぱるのは「正統な」大学デビューに続き繰り広げられる学生役の出演者三名銘々の「大学デビュー」です。三者三様に、女装、仮装、全身タイツを身にまとい教室に現れます。
その中で繰り替えされる「遅刻をして登場する」というお決まりのパターン、先生の台詞、同じく繰り替えされる煽りの音楽が中国人の心をつかみます。
「ここで笑わせたいのだ」という笑いどころと、思わず吹き出してしまうコミカルな出演者のたたずまいが受けています。(ただし、オチは少し不条理です)
動画の再生回数はビリビリ動画で27.6万回を数え、コメント数は3,000以上にも及びました。
より作りこまれた、わかりやすい笑いが受ける傾向にある、というのは、バラエティ番組を作り続ける鳥本氏の実感としてもあるようです。
日本の「当たり前」が驚き ~課外活動とラムネの例
「笑い」から少し視線をずらしてみましょう。
中国人は例えば「感動」「驚き」の感情をどういった場面で抱くか想像できるでしょうか。
「日本人にとっては当たり前」のことも、中国では驚きとともに受け入れられることもあるようです。
先ほどの例でふれたように、中国では高校までは勉強漬けが常識です。中国人の若い層には日本のアニメが好きな人も多いですが、彼らは「部活動」や「文化祭」といった「課外活動」が実在すると知ると驚きます。なぜならは勉強以外はしないことが「常識」で、国内で生活していると目にする機会がないからです。
同じく映画で目にする「瓶入りのラムネジュース」、これは訪日旅行で訪れる先でもなかなか手に入れることのできるものではありませんが、空港に陳列したところ非常に良い売れ行きとなったそうです。「画面の中で見たことのあるものがある!」という感激と驚きを与えているからでしょう。
このように「日本の当たり前、でも中国にはない」という題材はコンテンツや商材のキーポイントになる可能性があります。
学びのチャンス、リスクを恐れぬことがポイント
中国でクリエイティブコンテンツを制作していると、思いもよらぬことで中国人ユーザーの反感に出会います。
鳥本氏自身の体験談としてこんなエピソードを共有いただきました。
あるウェブ番組でのことです。日本人と中国人の性格の違いについて日本人が「中国人は細かいことを気にしない」と伝えたい場面があったそうです。そこで、ポジティブな見方を込めて「おおらかだ」と表現しました。ところがこれは中国人視聴者にはポジティブな評価とは響かず、「雑でだらしがない」というふうにとらえられてしまい、結果として炎上してしまいました。
またある時は、台湾人のユーチューバーを番組に招きました。番組自体には何の落ち度もなかったものの、視聴者がそのユーチューバーの過去の投稿から「台湾は良い《国》だから遊びに来てください」という発言を発見し、「その人を出演させているということは、この番組の関係者は台湾独立派なのか」といった抗議が発生しました。抗議は制作サイドであるoffice339にも殺到したそうです。
日中の感覚の違いを踏まえたうえでコンテンツを作っていても、やはり思いもよらぬところで、想定外の反応を受け取ることは避けられません。炎上を避けるのではなく、一度炎上したようなアプローチは避けて他の方法をとる。鳥本氏の体験からは失敗を学びの機会に変えクリエイティブの質の向上につなげることの大切さが見えてきます。
続く(3)では、成功事例を取り上げ、クリエイティブの「インタラクティブ」な要素が「自分事化」を生み出す仕組みに焦点を合わせ、「中国人の心のつかみ方」をお伝えします。
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【セミナーレポート】「山下智博」が刺さる!中国人ウケするクリエイティブ(3) 能動的受容「自分事化」を意識したプロモーション