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【特集】2017年、中国動画プロモーション市場は「UGC」から「PGC」に進化した!(後編) ~マクロでみる「動画」市場~

前編では「制作者」の視点から、動画市場において「PGC」が興隆した理由を見てきました。

ここからは視点を変えて「動画配信プラットフォーム」及び「中国政府」の立場から「PGC」が中国市場に必要だった理由を読み解いていきます。

(解説:トレンドExpress取締役 津田哲也)

用語解説
「PGC」(Professionally Generated Contents) プロにより制作されたコンテンツ
「UGC」(User Generated Contents)ユーザーにより制作されたコンテンツ

PGCへの進化、実は自然な流れだった

PGCは、UGCを補完するという要因だけでなく、動画配信サービスを提供する中国企業が経済的利益を追求することにより、現在の立場を確立することができたという側面もあります。

ご存知の方も多いと思いますが、中国では昔「海賊版」(盗版、ダオバン)と呼ばれる違法コピーのコンテンツが多く販売されたり、ネット上に無料で公開されたりしていました。

こういった違法コンテンツは動画配信プラットフォームにとって、利用者は増えるもののありがたくない存在でした。なぜなら、こういった違法コンテンツがいくら公開されていても、それを配信しているプラットフォームは「広告収入」を得ることができないからです。

そうはいっても海外の版権を購入するのにも小さくはない費用がかかります。

そこでプラットフォームを運営する企業としては、「オリジナルの価値あるコンテンツ」によりプラットフォームの地位を向上させる必要性がありました。

また中国政府の立場から動画市場をとらえると、2001年末のWTO加盟以降、自国のコンテンツ産業の発展が重要課題となっていました。というのも国内のコンテンツ産業が成長しないと、競合の海外コンテンツに市場の専有を許すことになってしまうためです。

参考:
WTO協定における文化多様性概念-コンテンツ産品の待遇および文化多様性条約との関係を中心に-(出典:独立行政法人経済産業研究所)

そして2010年代、市場ではスマホが普及し、続く数年でコンテンツ制作者としてのユーザーがKOLというインフルエンサーに成長します。

WTO加盟から約16年の今、この「政府の方向性」と「プラットフォームの意向」、そして「ユーザーの動き」の三者が重なり、PGCが生まれたという見方もできるでしょう。

競合多数のレッドオーシャンで勝ち抜く1本、その額〇〇万円!

以上のような状況から、「PGC」と呼ばれるコンテンツを生み出している制作会社が今、雨後のたけのこのように増えています。すでに見てきたように中国で「流行る」ということは「そこに多くのプレイヤーが押し寄せ」「競争しあい」「強者だけが生き残る」ということだからです。現在は一つ目、二つ目のフェーズだといえるでしょう。

  • 「消費者の好きなもの」をリサーチして作っている
  • マスメディアのようにセンサーシップ(放映可否の審査)が厳しくないので表現が広がり、結果として視聴者に「面白い」と思ってもらえる

このようにして制作されたコンテンツの、視聴者の心をゆさぶる力は絶大です。

たとえば以下のキャプチャは「三感故事」(故事はストーリーの意味)の新浪微博アカウントでのムービーのシェアです。

失恋した女性が立ち直るまでの100日間を描いています。

失恋した女性が立ち直るまでの100日間を描いた「三感故事」アカウントでのムービー

コメントは13,000件近く、リツイートは32,000件を超えています。(2017年11月30日現在)

コメントには「私も失恋した、とてもつらかったけど、髪を切って、化粧をして、ウォーキングと、読書をして…そして新しい恋をしました。今はとても元気です」、「失恋はつらい」、「こういった体験をできるのは限られた人だけ」「別れて半年と4日、時間がたてばたつほど彼が恋しい」…と共感の声が並んでいます。

(動画リンク:新浪微博サイト)
https://weibo.com/6135166906/FitnNuNdX?from=page_1005056135166906_profile&wvr=6&mod=weibotime&type=comment

「三感故事」のコンテンツは新浪微博に限らず、動画配信のプラットフォームで公開されています。

動画配信サイト、iQIYI(愛奇芸、アイチーイー)の「三感故事」のチャンネル

▲動画配信サイト、iQIYI(愛奇芸、アイチーイー)の「三感故事」のチャンネル

こういった「感動」「共感」を引き起こすコンテンツの視聴者への訴求力が評価され、現在結果としてコンテンツの制作には大きな予算が投じられています。

今、コンテンツ制作と公開にかかわる予算の規模は、動画1本につき1,000万円と言われています。

望外な額に響く場合もあるかもしれませんが「そこに多くのプレイヤーが押し寄せ」「競争しあい」「強者だけが生き残る」中国で今伸びている市場です。1,000万円という数字はとびぬけた価格ではなく、むしろ人口14億人という市場の大きさを念頭に置いた場合、妥当な金額と言えます。多くの企業が可能性を見出す制作会社ともなればなおさらです。

中国の動画市場は「プラットフォーム主導」ではなく「コンテンツ主導」であり、制作したコンテンツは複数の動画配信プラットフォームに掲載することが可能です。そのため上記の予算には制作料と企画費だけでなく、マルチチャネルコストが含まれています。

再生回数の多さが見込まれる「消費者の好みをおさえた」コンテンツであればプラットフォーム側からも歓迎されるので、プラットフォームへの動画掲載コストは低減されていく場合もあります。


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 まとめ

先日、Facebookの時価総額を超えたと報じられたテンセント。世界のトップ5にはアリババの名前も連なります。

経済成長の裏には一般市民の労働があり、仕事のストレス、可処分時間の減少も少なからず存在します。今後も短時間でより多くの情報を取得できる「動画」を利用する人は増えていき、また癒しを求める傾向は強まるのではないでしょうか。

先に紹介したような「失恋」がテーマの動画のように、大々的にはスポットライトが当てられていなかった「感情」を取り上げたコンテンツが、その感情への共感を軸に人々の目線を集めていき、新たなコミュニティやムーブメントを作り上げていくということも考えられます。

消費者の生活にどこから切り込み情報を届けるのか。中国の「最新トレンド」そして「生活スタイル」「常識」の3点から、その入り口のヒントが見つかるはずです。

トレンドExpressでは引き続き、中国の「最新トレンド」「生活スタイル」「常識」の情報をお届けします。


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