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「買った」日本商品ランキング~人気ブランドの注目ヘアケア市場攻略は?

前回掲載した、トレンドViewerの「買った」ランキングデータを集計した振り返り、そのランキングを見ていて気になったのは、やはりシャンプー「TSUBAKI」の伸びだ。

次回紹介する「コスメ・美容」セグメントのランキングでは同商品が1位、また「いち髪」が11位に入っている。

そこで注目される中国ヘアケアニーズ、中国シンクタンクによりレポートをもとに、その背景を探ってみよう。


▼前回は
中国消費者「買った」日本商品ランキング2019 ~クチコミ増も喜べない事情とは?~


「ケア」範囲の拡大が生んだ新市場

中国ヘアケア市場を語る前に、まずは前回紹介した今年の「買った」クチコミ年間ランキングTOP10を見てみよう。

【表】2019年「買った」クチコミランキングTOP10

このなかで注目に値するものはやはり5位となった「TSUBAKI」(資生堂)であろう。2017年からのデータに加えて、2016年を見ても、ヘアケア関連商品がTOP10に入るのは初めてとなる。

 

では、その「買った」ランキングにおける、コスメ・美容部門「ヘアケア・スタイリング」セグメントのクチコミ件数を見てみよう。

【グラフ】「買った」クチコミ、「ヘアケア・スタイリング」セグメント件数推移

その件数を見てみると、2016年同時期は118,664件、2019年の件数が289,018件なので、140%以上の増加となる。

 

2019年9月、中国のシンクタンク「第一財経商業数据中心(CBNData)」はT-Mallと共同で中国のシャンプー・ヘアケア市場を分析、『天猫洗護髪行業消費趨勢洞察』というレポートを公表している。

 

それによると、T-Mallにおけるヘアケア商材の消費は2年連続で50%以上の伸びを見せており、特に「95後」世代による消費が顕著となっているという。

 

こうした消費増加の背景にあるのは、スキンケアをきっかけとした「ケア」意識の広がりである。

現代中国の特に大都市では、スキンケアに関心のない女性は皆無に等しい。それぞれがスキンケアへのこだわりがあり、基礎化粧品に日本以上の知識を有している。

常に「より良い肌」を求めて日々情報を集め、実践しているのである。

 

そうして肌に自信を持ち始めたとき、ふと気が付くのはパサついたり、オイリーだったりという髪の悩み。

そこから「髪を洗う」という行為の考え方が大きく変わっているためだと、同レポートでは分析している。

 

以前の中国では、「シャンプーで洗い、コンディショナーで整える」という単純な考えしかなかったシャンプーが、「髪のケア」としての地位を与えられたのである。

髪を清潔に保つという意識以外に、頭皮のケア、髪のケアを分けて考えるようになり、また髪のケアにおいてもヘッドSPAなど、より「質の高い髪」を求める傾向が年々強まっているのである。

 

興味深いのは、T-Mallのデータでヘアケア商材の消費が高い10都市を紹介しているが、2位の北京と8位のウルムチ(新疆ウイグル自治区)以外の8都市はいずれも上海、江蘇省、浙江省の江南エリアである。

 

その中でも江蘇省は5都市とTOP10の半数を占める結果に。日本ともなじみの深い揚州市、また常州市や泰州市はこれまで工業都市として知られていたが、こうした都市でもヘアケアへのこだわりが広がっている模様。

 

特に流行の最先端である上海に近いこれらの都市では、そのスタイルが上海から蘇州、無錫、そして南京といった高速鉄道線上でつながっている都市へ放射線状に波及しているといえる。

【イメージ】T-Mallヘアケア商品消費額上位10都市

出所:『天猫洗護髪行業消費趨勢洞察』(CBN Data&T-Mall)をもとに編集部で作成

 

また同レポートの中で、ヘアケア市場のなかの「成長株」と見られているのが脱毛防止効果のあるヘアケア商品。金額としては「ダメージケア、修復」や「髪の柔軟性の付与」といった機能には及ばないものの、消費金額成長率では「皮脂コントロール」に次ぐ2位となっており、特に90後、95後世代が主力消費者になっているという。

 

その原因として考えられるのは生活の不摂生。大都市ではナイトライフが充実することで生活は不規則になること、また社会とのストレスなどが考えられる。

 

もう一つは、抜けるのではなく「切れている」ことを抜け毛と勘違いしているケースだ。ある日本で中国からの観光客に対応した経験を持つスタイリストによると「カラーやパーマ、乾燥などで傷んだ髪がブラシの際に切れて落ちてしまう、それを抜け毛と思っている可能性もある」という。

いずれにせよ、こうしたニーズには日本企業にも十分に参入のチャンスが残っていると考えられる。

新市場で足場を固めたTSUBAKI

そんな追い風環境のなか、クチコミ件数を伸ばしているのが資生堂の「TSUBAKI」である。年間クチコミ件数(いずれも1月第1週から10月最終週)を比べると、2018年に比して58%増という大きな伸びを見せている。

【グラフ】TSUBAKIクチコミ総数の推移

その背景はやはり効果。髪の質を改善し、しなやかでつや与えたり、ダメージ修復機能、またボリュームを与えたりといった、それぞれの機能が、中国女性の髪の悩みにマッチしている様子。

TSUBAKIのWeibo公式アカウント

Weiboや小紅書(RED)ではその機能の体験や他ブランドとの比較クチコミが多くみられる。ちなみに小紅書では「TSUBAKI」と検索するとダメージ修復ヘアパックの、中国語表記の「丝蓓绮」ではシャンプーの書き込み比率が若干ずつ高まる傾向があるようだ。

 

中国のヘアケアニーズの高まりもあってか、同社も積極的なプロモーションを展開している。なかでもWeiboの話題ページの活用が非常に多くみられる。

TSUBAKI話題ページ「心揺さぶる綺跡」。「奇跡」の奇を丝蓓绮の「绮」に。

筆者が注目したのが、キーワードの設定も自然な形で「TSUBAKI」の中国ネームである「丝蓓绮」、特に「绮」の字を使ったキーワード設定をしていること。

「绮」という字は元来、鮮やかな刺繍・絵柄を施されたシルクを指し、優雅で華やか、美しいという印象を与える文字である(ちなみに「丝」はシルク、「蓓」はつぼみのことで、いずれも“美しい”“可憐”といったイメージを与える漢字)。

その言葉と生活や恋愛を掛け合わせることで、ターゲットである若い女性(ホワイトカラー)のライフスタイルに響きやすいキーワードを作り上げている。

「日系お宝彼氏との不思議な出会い」というキーワードの話題ページ。ここでも「奇」を「綺」に。

またWeiboをチェックしてみると、フォロワー数100万人程度、ファッショやコスメに特化した商品の世界観に合ったKOLを多くアサインしているように見られる。

もちろんそれ以上の大型KOLのアサインも可能なのだろうが、あえて平時にこのクラスのKOLを多くアサインし継続的な発信で情報を蓄積し、キャンペーン時に盛り上がりやすい状態を整えているのかもしれない。

 

これは決して奇をてらった手法ではなく、中国でも基本的なマーケティング。その基本を忠実に、徹底して展開し、結果へと結びつけているのである。

 

中国では高級ヘアケア市場というのは出来上がったばかりの市場だが、その中でTSUBAKIは着実にその地位を固めつつあるといえるだろう。

次の狙いは「ジャパン・ヘアスタイル」?

さて、余談ではあるがもう一つ、中国のヘアケア市場で着目したい点がある。それはヘアスタイル。

中国ではヘアサロンに日本のような「ヘアカタログ」がないことが多く、現在の消費者はSNS、例えば小紅書(RED)や近年人気の抖音(Douyin 中国版TikTok)などから情報を得、それらを参考にヘアサロンで注文することが多い。

 

そんな中国のヘアスタイル界でネットを中心にざわめいているのが「劉海」。「前髪」のことである。中でも一部で「二次元劉海(二次元前髪)」という言葉が出回っている。

これは毛先をぴっちりと一直線にそろえた前髪を指すらしく、特に短め、額を大きく出してしまうくらいまで切った前髪をいうケースが比較的多いようだ。

 

その写真を見てみると、やはり「日本風」。二次元とつくだけあって日本のアニメに登場しそうな「Kawaii」ファッションである。

2016年ごろには、あの「ファン・ビンビン」がこのスタイルにしていたこともあり、注目されたが、2019年に入ってブームが起きつつある。

出所:https://new.qq.com/omn/20190913/20190913A01D2I00.html#p=1

これを機に「ジャパン・ヘアケア&ヘアスタイル」ブームを中国に根付かせたいところである。