中国動画マーケティング大解剖 Vol.1~基礎知識編
中国の消費者向けのマーケティングで効果的な手法として注目されている動画マーケティング。
「よし!動画マーケティングするぞ!」といっても、数多いプラットホーム、動画の種類、またどのようにしたら中国の消費者に刺さるのか…などなど、不安は絶えません。
そこで中国トレンドExpressでは進化を続ける中国のネット動画およびそれを活用したマーケティングを大解剖。基礎知識から今後の中国動画マーケティングのコツまでを分析します。
今回はその基礎編。中国ネット動画の市場環境を見ていきます。
ざっくり把握、中国ネット動画市場概況
かつて中国トレンドExpressでは「2017年、中国動画プロモーション市場は「UGC」から「PGC」に進化した!」という特集を組み、中国の動画プロモーションの主役が、プロの制作する「UGC」から一般ユーザー(KOL含む)が制作してアップする「PGC」へと進化していることを紹介しました。
同記事を公開した2017年時点はまさにPGCが発展していた時期でした。しかし、それによってUGCが廃れたかと言えばそうではなく、約2年後の現在はUGC、PGC双方がそれぞれの特徴を生かし、マーケティングツールとして広く活用されています。
またPGCでもストーリー性をもった極めて高いクオリティの動画を制作するケースも登場しており、その境目が徐々に不明確になっているような印象もあります。
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【特集】2017年、中国動画プロモーション市場は「UGC」から「PGC」に進化した!(前編) ~中国「動画」マーケティング最前線~
【特集】2017年、中国動画プロモーション市場は「UGC」から「PGC」に進化した!(後編) ~マクロでみる「動画」市場~
その状況を理解するために、まずは中国の「ネット動画」の市場を俯瞰してみましょう。
【グラフ】中国ネット動画業界の市場規模(単位:億元)
出所:2018年網絡視頻行業市場格局与発展趨勢分析 創新不足成行業核心挑戦(前瞻経済学人)https://www.qianzhan.com/analyst/detail/220/190125-a8d796a8.html
これを見ると確かに「ライブ動画」や「ショートビデオ」などの新しいPGC系の動画市場が急速に拡大していることが見て取れます。
しかし、それによってUGC系の動画市場が減退しているわけではく、同じく規模を拡大させ、ネット動画全体の市場が大きく拡大している様子が見て取れます。
こうしたネット上の動画市場の伸びを支えているのは、一つには中国で進んでいるモバイル化。モバイル人口は国内で8億人ともいわれ、日本のようにガラゲーを手にする人は一線都市だけではなく、地方都市に出ても見かけなくなりました。
こうしたスマホの普及によりSNS市場も同時に拡大しました。通勤時や昼休み、仕事が終わって帰宅したひと時など、スマホで動画を見るのがライフスタイルとして定着。
同時にSNS上で消費者に人気な動画が閲覧、転載されていくことでネット動画市場も拡大してきたのです。
下記は中国のシンクタンクによる2018年中国消費者の動画閲覧頻度です。
【グラフ】2018年ネット動画視聴頻度
出所:同上
これを見ると、4割以上の人が毎日何かの動画を欠かさずに見ていることになり、ネット動画が中国消費者の社会に深く浸透していることが見て取れます。
多くの消費者から聞こえるのは「記事は文字を読むのが面倒だけど、動画だと気楽にみられる」、「音と映像で見るので文字みたいに想像しなくていい」といった声。
高速ライフサイクルの中国消費者にとって、自分のために使える時間は限られます。だから短時間でより多くの情報を得ることのできる動画が好まれるのかもしれません。
中国動画セグメントとプラットホームは?
前述のように中国のライフスタイルに浸透し、拡大を続けている中国のネット動画市場。中国消費者にむけのブランディングや商品訴求に欠かせないツールとなっている背景が理解できたと思います。
続いて、中国のネット動画の種類、プラットホームについて簡単に整理しましょう。
【参考】中国のネットサービスの発展状況
UGC系大手プラットホーム
まず中国で最初に登場したのが、テレビ番組や海外の映画、アニメ作品を提供する動画サイトでした。以前は無断アップロードによる著作権侵害が問題視されましたが、現在はテレビ局が中国国内で放送しているドラマを、同タイミングでこうした動画プラットホームでも公開することにより、より多くの視聴者を獲得しています。
こうしたプラットホーム、動画に特化した先駆け的プラットホーム(優酷、土豆)もありますが、2005年から2006年にかけてポータルサイト運営企業(騰訊、捜狐)にいるものであったり、さらにはテレビ局(央視影音)といった正規メディアなどが参入。その資本力を活かして一気に拡大、同時に淘汰・合併が行われました。
またメーカー側は閲覧数の高い動画に広告をつけたり、自社で制作したコマーシャル動画をアップしたりといった手法でマーケティング活用を行っています。
2017年には日清食品がアニメ『銀魂』とコラボ―レーションしたカップヌードルのアニメCMをこうしたプラットホームで拡散することで、ダブルイレブンから年末商戦を有利に展開しています。
■主なプラットホーム
-優酷
-土豆
-愛奇芸
-騰訊
-捜狐
-央視影音
など
PGC系
エンターテイメント動画
この分野で最も影響力があり、日本でも知られるようになったのは「bilibili」でしょう。
通常のドラマやアニメ視聴のほか、ユーザー独自の動画をアップする欧米のYouTubeのコンセプトのほか、コメントだけでなく「弾幕」と呼ばれるリアルタイムの感想の書き込みといった日本のニコニコ動画の手法などを導入し、中国の80後、90後、00後といった新世代の人気を勝ち得ています。
ライブプラットホーム
PGCでもいくつかパターンがありますが、日本で中国動画マーケティングの主流にもなりつつあるのが「ライブ配信」。KOLなどの影響力のある人物がリアルタイムで商品紹介や観光スポット紹介を行うことで、高いPR効果が得られるというもの。
2016年は「ライブ元年」、さらには618で積極的に活用されたことで「ライブコマース元年」ともいわれるほどになりました。
■主なプラットホーム
-Taobao直播
-一直播
-虎牙
-斗魚
など
短視頻(ショートビデオ)
2016年頃から新たなネット動画として登場したのが「短視頻(ショートビデオ)と呼ばれる動画。こちらも一般ユーザーが製作して公開するPGC系の動画と言えます。
ほとんどが十数秒~1分以内の短い動画で街角のおもしろ動画や動物などに加え、音楽に合わせたダンス、突拍子の無いモノへのチャレンジなど、自己表現ができる場として若者たちからの人気を得ることができました。
■主なプラットホーム
-快手
-西瓜視頻
-火山視頻
※抖音(Douyin TikTok)
現在世界的に人気となっている「Tik Tok」の本元・Douyinも、こうした背景をベースに誕生しました。しかし同アプリはショートビデオに留まらない個別の進化を遂げており、また別の機会に分析をしていきたいと思います。
海外に後れての波がやってきた?~Vlog
さて、2018年に入り、こうした動画業界で新たなセグメントが注目されてきました。それがVlog。
これは「Video blog」の略で、いわばネット上で行ってる日常生活を伝えるブログを動画形式で行うというものです。
Vlogに関しては海外ではすでに10年以上にわたって拡大しており、すでにマーケティングにも活用されてきました。
しかし中国では、いったん登場しましたが、その後のショートビデオブームに押され、あまり注目されていませんでした。
ところが近年「快手」では新されているシートビデオの内容が「低俗である」として、中国当局がショートビデオを管理する法律を制定、綱紀粛正を図っていることで、一般ユーザーがより自由な発信ができるVlogへと目が向けられているのです。
さらに人気女優・KOLとして知られる「欧陽娜娜」が自身のVlogをDouyinなどで公開したり、今年の「両会」で中央電視台の記者が取材の模様をVlogにして発信し、正式な番組として放送されたりと、一気に人気が高まり、それと同時に企業のマーケティングツールとして注目が高まってます。
海外に後れての発進となりましたが、中国でVlogがどのような発展を遂げるのか注目し、その制作方法なども本コンテンツの活用篇などで触れいきたいと思います。
次回はネット動画マーケティング活用編。こうした基礎知識をベースに「ネット動画をいかにしてマーケティングに活用するか」のコツを紐解いてみたいと思います。