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【column】中国マーケティング環境。ポイントはオフラインでの「体験」へ?

特別な1年が終わろうとしている。

社会環境が大きく変わったこの1年では、中国市場でのマーケティングも変化を見せ、どの企業もその変化に対応することで必死になったのではないだろうか?

1年の最後に中国マーケティングの最も大きな部分を振り返りつつ、新たなポイントについて考えてみた。


2020年の中国マーケティングは何が違ったのか?

前回は中国の消費動向を、公的データを拾って読んでみた。

今回はその消費を導き出すためのマーケティングであるが、2020年はとにかく話題が多かった。

 

日本でも大きく報道されたのは、やはり「ライブコマース」だろう。

オンライン上で商品の情報発信をしつつ、リアルタイムで購入していくというモデルの販売方式である。

中国では2018年の618で本格投入され、2019年の2大商戦を経て普及・浸透していった。そのタイミングで起こったのが新型コロナウイルスである。

 

武漢市のロックダウンに始まり、長く続いた巣ごもり期間で、消費者は新たな娯楽として、ライブ配信を楽しんでいた。

同時に外出規制によって業績に悪影響を受けていた多くのメーカーは、こうしたライブに載せて商品を販売することに活路を見出した。

 

やがて「直播間」と呼ばれるライブコマース会場にはKOL、芸能人、さらには商品を作る企業のトップまで登場し、商品を消費者に訴求、販売していった。

 

中国の調査会社である艾媒諮詢の調査では2017年当時には190億元程度であった中国ライブコマースの市場規模は拡大のスピードを速め、2020年には9610億元、2021年には1兆元を突破すると予想されている。

【グラフ】中国ライブコマースの市場規模推移(単位:億元)

出所:艾媒諮詢

まさにライブを行わなければ商品は売れないかのような雰囲気が醸成されていった。

2021年以降の中国マーケティングは?~オフラインへの回帰

こうした社会背景の中で、中国ではオンライン化がますます進んでいくように見える。

 

中国マーケティング業界「内容营销」という中国語がマーケティング業界で注目された。訳せば「コンテンツマーケティング」であるが、そこで大きな構成要素となっているのも、KOLや著名人が直接語り掛けるライブコマースである。

 

しかし、ライブコマースは「抜草」、すなわち「刈り取り」でしかない。果たしてそれのみに頼ることが中国消費者の心をつかむ方法なのだろうか?

そんな疑問が湧いたのも2020年のこと。注目しておきたい「オフライン」の動きが目に見えてきたからである。

 

日本では「中国ビジネス=オンライン」という認識が浸透し、マーケティングもオンラインが中心に考えられている。

しかし、2019年末から巣ごもり期を経た中国オフラインで広がった新たな動き。

 

それがコスメセレクトショップである。

 

The COLORISTをはじめとする新しいタイプのセレクトショップは、SNS映えをする華やかな店舗デザインと、何よりも「すべての商品が体験可能」という点で一気に人気を集めた。

The COLORIST、WOW Colorなどのコスメセレクトショップはいずれも店舗内の商品を直接手に取り、気に入ったらその場でもWeChatミニプログラムなどのオンラインでも購入可能という、オンライン・オフラインを融合させたニューリテールモデルの店舗なのである。

 

この「体験」というものが大きなカギである。

 

そもそも中国の消費者は「確実に良いとわからないもの」には金銭を支払いたがらない。購入時にはそうと確認することが重要。すなわち「実際に試すという体験」が最も効果的なのである。

 

そもそもKOLが広がった背景には、オンラインでの購入という非接触型のショッピングの中で、商品の実体験を「別の誰かが代わって行ってくれた」ことにも起因している。

しかし、現在KOLは広告の一部としての役割が大きくなり、中国の消費者は実体験の「穴を埋める」ことが求められているのである。

 

そうした環境で、中国で話題となっているコスメセレクトショップは、全商品のテスト可能という点で多くの消費者を集めた。

そこには「まず体験して、良さを“確認して”から買いたい」という中国消費者の思いが隠れているように感じる。


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ちなみにこうした「実体験欲求」は日本ブランドにとっては追い風になる。

日本企業が長年中国市場で言い続けてきたのは「使ってもらえば良さが分かる!」という自信であり、商品もそうした消費者を満足されるだけの品質を備えていた。

しかし中国の急激のオンライン化を目の当たりにするなかで、マーケティング活動がオンラインにシフトしすぎ、それがゆえに「消費者との直接の接点」を失ってしまっていた。

 

しかし、どのような広告、KOLによるライブも、ターゲット消費者の1回の体験に勝るものはない。

そしてその体験時の消費者の声に耳を傾けることで、思わぬ発見もあるやもしれない。

 

今後の中国マーケティング、もちろんSNSによる情報発信、ライブコマースによる商品の販売などのオンライン・コンテンツマーケティングはより重要度を増す。

しかし、それだけでは消費者の心の隙間を埋めきれない。

埋めることができるのは、マーケティングの基礎である「オフラインでの消費者接触」という道。

 

その道を忘れずに進んでいくことも、中国攻略には必須なのではないだろうか。