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対決シリーズ【欧米vs韓国vs日本】化粧品の場合(3)~事例から学ぶ、勝てるプロモーションの設計と規模~

ここまで、中国における化粧品市場での勝者を「クチコミ件数」総数とその年間の推移から考察してきました。

▼「化粧品対決」シリーズはこちら

対決シリーズ【欧米vs韓国vs日本】化粧品の場合(1)~主要ブランドを独自調査!SNS露出には○○の多さも影響~

対決シリーズ!【欧米vs韓国vs日本】化粧品の場合(2) ~キャンペーンは最低月一回、勝者は秋だけでなくて○○にも実施していた!~

本編では実際の事例を2件紹介し、共通する「中国市場で戦うためのセオリー」を浮かび上がらせてみたいと思います。

1.人気ワンホン22名がプラットフォーム各所でバトル

まずは資生堂の2016年のキャンペーンは「資生堂美肌達人、美肌バトル」について、キャンペーンの結果とその勝因をご紹介します。

【キャンペーン概要】
「資生堂美肌達人、美肌バトル」と銘打って、女性向けメディア「OnlyLady女人志」と協力し各種SNS、ECサイトを舞台にKOLによる美肌の競い合いを開催しました。

露出は増加、クチコミタイプも変化~使用感想の増加でさらなる消費を呼び起こす

本キャンペーンでは、放送された動画に対する“いいね”の数は総計400万件を超えました。またこのキャンペーンを実施した10月には、露出件数が増加しています。資生堂はこのほかにも通年でのプロモーションを実施しており、クチコミはじめとするSNSでの露出が通年見られますが、特に10月に行われたこのキャンペーンは大きな成果を上げています。

クチコミの性質別に分類した【領域分布】の分析では、一年を通じて【販売情報】が最多で次に【キャンペーン】となっています。2016年の7月、10月は実施したキャンペーンがヒットしこの割合が反転、書き込み全体における【キャンペーン】の占める割合はそれぞれ41%と45%となりました。

そして、キャンペーンの露出の増加に伴い、【使用感想】の書き込み件数が増加することには要注目です。7月、10月には【使用感想】の書き込み割合が増加しています。さらには、11月、12月の書き込み全体における【使用感想】の割合は一年を通じて最多となっています。

クチコミの性質別に比率を算出した、領域分布の年間推移

▲クチコミの性質別に比率を算出した、領域分布の年間推移

キャンペーンの実施により、【使用感想】の露出割合が上昇することで、ユーザーの購買、使用意向を促進している可能性があることが見えてきます。


▼クチコミの性質の変化が売上につながる!成功事例を直伝するセミナーのサマリーです

【セミナーレポート】越境ECで爆売れ!「アームカバー」の陣(3)~中国向け全3編のPR記事のポイントと『リスクをチャンスに変える』思考法~

▼なぜ使用感想のクチコミが購入を後押しするのか? こちらのレポートで解説しています

【セミナーレポート】China Beauty(4) ~リピート購入と「極上の」クチコミを招くサンプリング~


 資生堂を勝利へ導いた、市場の「常識」と「流行り」のバランス良い調合

キャンペーンは22名のKOLを招き、9日間にわたって開催されています。「映客」「美拍」「一直播」といった動画配信のプラットフォーム、およびECモールの「天猫」で生中継を放映しました。優勝したKOLにはパリでの式典出席が用意されており、この栄冠を手にしたKOLはその喜びをアカウントで表現しています。

対決するKOL

▲対決するKOL

KOLの顔ぶれの豪華さはさることながら、「対決」というトピックのキャッチーさを理解し採用したメーカー側の判断力も勝因の一つでしょう。もうすでにご理解されている方も多いとは思いますが、2016年の中国市場では、「ライブ動画」「網紅」が2016年のネットプロモーションの王道となっていました。この要素に「対決」というテーマを設定し、参加KOLの気持ちも鑑賞するユーザーの気持ちも巻き込むことに成功しています。

また視聴やリアクションの動機づけを用意するのもSNSプロモーションの定番です。50元引きのクーポン、SNS上のリアクションに対し抽選で商品のプレゼント、ONLYLADY(媒体)からアクセスして購入した場合の景品…などがインセンティブとして準備されました。

「SNS上のリアクション」に関して、SNSでは化粧品の「空き瓶」を紹介するのも定番の投稿ですが、上記のようなインセンティブを用意することで「使用感想」と「商品のパッケージ」が同時に露出することも多いこのタイプの投稿も期待できます。

2.2時間で1万本が売れた!ビッグスター&ECプラットフォーム

次にご紹介するのは2016年4月の「メイベリン」による口紅のプロモーション&販売事例です。出演したのは日本での活動歴もあるファッションモデル「アンジェラベイビー」で、微博のフォロワー数は8000万を超え、トップ中のトップスターです。

このキャンペーンの豪華さは彼女の知名度だけでなく、キャンペーンに合わせて50人ものKOLが動画をアップしたことにも表れています。動画の内容は拡散するSNS、動画配信プラットフォームごとに異なる内容の配信とし、徹底した「SNS映え」を追求しました。

またこの動画がさらに多くの人を引き付ける結果となったのは、やはりその「広告色のなさ」です。冒頭は「イベント会場に向かうアンジェラベイビーが大渋滞に巻き込まれる」という演出からスタートするため、直接製品に興味のないユーザーも引き付けられたであろうことは容易に想像できます。

渋滞に巻き込まれ困惑した表情のアンジェラベイビー

▲渋滞に巻き込まれ困惑した表情のアンジェラベイビー

このキャンペーンでは2時間でなんと1万本以上の製品が購買され、中国のメイクアップ市場、マーケティング業界に大きなインパクトを与えました。

「ライブ動画による実演販売」という手法は代理購入業者(ソーシャルバイヤー)やKOLの間では当時既に定番の方法でしたが、メイベリンという有名なブランドがアンジェラベイビーというスターを起用して行うのは初めてでした。大手として、流行手法を活用する先陣を切ったといえるでしょう。

ネットの施策の成功可能性の大部分は、その時点で最も流行っている手法をいち早く取り入れることができるかどうかにかかっています。メイベリンの決断、実施のスピードが成功を導いたといえるでしょう。

まとめ ~ネット中心でもセンスの良さがカギに

2件の成功事例を見てきました。「中国のマーケティングはネットが中心」という言葉は正しいですが、注意しなければならないのは「予算をかけないでよい」という意味ではないということです。どちらもキャンペーン全体のイメージや、ブランドの存在感を損なわない構成になっており、そこに多額の予算が投じられたことは想像に難くありません。

発信の場はこれまでのマスメディアからネットに移りましたが、商品の魅力をターゲットである消費者に受け取ってもらうためには、消費者インサイトを理解した上でコンテンツを作り込み、広告の持つ押しつけがましさのない施策になるよう、全体の設計をすることが大切なのは変わりません。

また今回はご紹介しませんでしたが、VRを用いて自撮り写真にメイクアイテムを試用できるアプリも人気を博しました。中国人消費者に特徴的な「購入する前に試してみたい」という強いニーズ(消費者インサイト)に呼応した成功例といえるでしょう。


▼サンプリングの効果についても、こちらのレポートで解説しています

【セミナーレポート】China Beauty(4) ~リピート購入と「極上の」クチコミを招くサンプリング~


「広告色のなさ」に代表されるような「消費者が『いいね』と思える手法」をかぎ分ける、判断することもプロモーションを成功に導きます。そして、こういった判断を可能にする「センス」はトライアンドエラーと客観的なデータの蓄積によって培われます。

中国トレンドExpressでは複数の事例を不定期に紹介しています。中国マーケティングの定番と流行をチェックして、市場で武器となるセンスを磨く一助となるのではないでしょうか。

 

▼「化粧品対決」シリーズはこちら

対決シリーズ【欧米vs韓国vs日本】化粧品の場合(1)~主要ブランドを独自調査!SNS露出には○○の多さも影響~

対決シリーズ!【欧米vs韓国vs日本】化粧品の場合(2) ~キャンペーンは最低月一回、勝者は秋だけでなくて○○にも実施していた!~