今ドキ中国消費者解体新書 「カスタマージャーニー」で見える中国市場攻略法 Vol.7 ~中国消費者の心に“種”を届けるには~
前回は中国の消費者が購入に至るまでの各フェーズと、その中で活用されるツールについてざっくりと紹介したが、今回からはそのフェーズごとの状況を把握していこう。
まずは消費者が商品と出会う「認知フェーズ」である。
人でも商品でも、やはり「第一印象」は非常に重要。そして、中国消費者が最も注意深く望んでいるのがこのフェーズともいえるだろう。
中国でのインタビューをもとに、中国消費者とどのように出会うのが理想的かを考えていこう。
「種」を植えることができるかは勝負の世界
まずはもう一度、中国消費者の購入までのプロセスを見てみよう。
【参考】中国消費者の商品購入の流れ(概要)
スタートとなるのは「認知」。すなわち商品を初めて知る、商品の情報を得るというフェーズである。
これだけ見ると「まだ最初の段階」、「比較的容易」と思われがちだが、中国市場においてはこの最初の1歩目が極めて難しいということに意識を向けなくてはならない。
その理由は中国トレンドExpressでも繰り返し述べている。中国の消費者が企業の広告に対して極めて高い警戒心を抱いているからである。
それを示すのが、中国のネット用語となっている「種草」というワードである。
すでに日本の対中国マーケティング業界に定着した感のある中国語「種草(zhongcao)」。直訳すれば「草を植える」だが、意味としては「商品に興味を覚える。買いたくなる」という意味合いである。
この言葉について消費者から直接話を聞いていると、多くの消費者が「ポジティブな意味としてとらえていない」ということに気づかされる。
最もわかりやすい例が上海でインタビューに応じてくれた女性(20代)が使った表現「如果、不小心被種草的話~」、簡単に言うと「つい“うっかり”種草されたとしたら~」である。
つまり、消費者に対して企業やKOLの発信する情報に対して興味を引くことは、企業の策略にハマってしまった、いわば「負け」なのである。
中国消費者はその勝負に負けないよう、注意深く、用心しながら企業からの情報に接していることを理解しておこう。
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続いて、この企業の商品と消費者の「理想的な初接触」はどういったものであるべきか、どうすればまず「種草」を成功させることができるのか、を考えていきたい。
こうした消費者と企業の「種草」をめぐる戦いの主戦場となっているのがSNSである。
現在の中国のマーケティング業界ではいわゆる「双微+R」(Weibo&Wechat+RED)と呼ばれる3種類のSNSが主流になっている。
消費者へのWEB調査やインタビューによると、そのなかで「認知フェーズ」として彼ら・彼女ら使っているのが「Weibo」と「小紅書(RED)」である。
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両者ともにオープン型のSNSであるが、全社はニュース報道や企業公式アカウント、またKOLの発信など、マスメディア的な使われているのに対して、小紅書は一般ユーザーの感想といったリアルなクチコミを探すという使い分けがされている。
特に小紅書で多いのが「悩み検索」をして商品を探している際に現在使用している商品に出会う、というパターン。
使い方としては、悩みキーワード(例:敏感肌 ダイエット メイク…など)を検索し、自身の同様の悩みを持っている投稿者、同じような肌質・体質の投稿者を探していき、その投稿で使われている商品をチェックする。
そこで消費者が見るのが、その悩みキーワード検索で1つの商品に言及した記事の量である。一つの悩みに対して、より多くの投稿がされている商品はすなわち、その悩み解決に効果的、という判断である。
また、SNSに備わっている機能を賢く使う女性もいる。その機能とはリターゲティングである。
SNSで特定のキーワードを検索していると、その後関連の投稿が自動的に表示されるが、中国の消費者この機能を賢く使う。
インタビューに答えてくれた乾燥肌に悩む上海の女性は、小紅書をチェックする際はトップ画面の段階で複数回ページ更新作業をするという。その理由は「繰り返し更新してみると、表示される投稿が変わるなかで、表示される回数の多い投稿をチェックするようにしている」のだそうで、これも表示される回数が多い→より多くの乾燥肌の女性に検索されている記事→信用できるかも、というのである。
実はこうした役割はかつてWeiboが担っていたが、現在WeiboはKOLや企業アカウント、報道情報など、比較的パブリックな情報ツールとなっており、こうした何かの悩みを解決するリアルな情報収集に関しては、その座を小紅書に譲っている状況である。
まとめれば、「いかに消費者の行動の中に自然に、消費者が自分で見つけた場所に商品が現れるか」ということになろうか。
ちなみに、ある上海の消費者が進めたプラットホームが「B站」、すなわちBilibili動画である。
これは日本のニコニコ動画を模した動画サイトで、2次元、すわなち日本のアニメやサブカルチャー好きの若者を中心に火が付いたサイトである。
ここを「種草」に薦める理由について彼女が言うのが、「B站はアニメという“ピュアな空間”をみんな楽しもうとしてきている。そこに、その雰囲気にあった広告動画が有ったら自然に見てしまうし、それが自分の欲しいものなら覚えていくと思う。小紅書はだいぶ広告が増えてきていて、見る時には警戒心を持って見ているので…」。
こうした、やや特殊な場所でのマーケティングも考えていく必要があるのかもしれない。そこに合わせる、というハードルも高そうだが…。
KOLは「種草」にふさわしい存在か?
最後に、このマーケティング要素について少しだけ触れておこう。
中国市場向けのマーケティング、プロモーションにおいて大きな存在となっているKOLである。
日本でも「中国市場向けはまずKOLを」という業者もいれば、「KOLをやりさえすれば」と、「KOL→販売増」効果に期待する企業も、実はまだ多い。
しかし、すでに中国市場、中国消費者はKOLという存在に対する見方を変えている。
30代の女性はこう語る。
「有名人、KOLの紹介する商品が“種草”となる場合もある。しかし、それは比較的小さな種に過ぎない。それが芽を出し成長するには、もっとたくさんの肥料が必要。なぜならそれは企業が植えたい種であって、自分が欲しい種だとは限らないから」。
初期のKOL(もしくは「博主(ブロガー)」)は自身の体験をもとにおススメ商品を紹介していたが、現在多くのKOLが企業の広告塔としての発信となっていることを、中国の消費者は知っている。
ごく一部のトップKOLを除けば、雑誌やテレビの宣伝広告と同様という意識すら垣間見える。
そうした流れの中で、すでに中国のマーケ業界でも「KOLからKOC(Key Opinion Customer)へ」という言葉がささやかれ、ソーシャルバイヤーなどを含む一般消費者による情報発信を重視するような傾向がある。
このKOLの現状については別企画でじっくりと研究してみたい。
いずれにせよKOLの発信力は強いものであるが、それを有効に行うのはより多くの「肥料」、すなわち消費者の信頼を得るための素材とその発信が必要となるだろう。
それはまさに「認知」の次、「興味・理解フェーズ」での課題となる。次回はそのフェーズを深掘りしてみよう。